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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)426号 判決 1958年10月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人秋吉一男、同米津稜威雄の上告理由について。

論旨の主眼とするところは、商法二〇四条一頃の保障する株式譲渡の自由は、株式成立当初からの譲渡の自由を意味し、株券発行後の株式譲渡の自由のみに限定されるべきいわれがないのみならず、同条二項の決意も、株券発行事務の渋滞を避けるという単なる技術的理由から株券発行の準備期間内における株式譲渡の効力を会社に対する関係において否定するにとどまり、会社の成立後通常株券を発行し得る合理的期間経過後の株式譲渡の効力までも否定するものではなく、右合理的期間の経過後は、株券の発行がなくても会社において株式譲渡を承認した以上、その譲渡は、会社に対する関係においても効力を生ずるものと解すべきのところ、原判決は右の解釈を誤つた違法があるというにある。

しかし、法は、所論のように株式の自由譲渡性を保障(商法二〇四条一項)しながらも、その譲渡方法は、株主たる地位を表彰する要式の株券による(同二〇五条一項、二二五条)べきものとし、株券の発行前にした株式の譲渡は、「会社ニ対シ其ノ効力ヲ生ゼズ」(同二〇四条二項)としているのであつて、その法意は、いわゆる「対抗スルコトヲ得ズ」とある場合と異なり、会社に対する関係においては何等の効力をも生じないとするにあるのであり、従つて、会社からもその効力を認め得ないものと解しなければならない。けだし、このような制限を法定したのは、所論の技術的理由によることもさることながら、、株券発行前の譲渡方式に一定されたものがないことによる法律関係の不安定を除去しようとする考慮によるものであつて、すなわち、会社株主間の権利関係の明確かつ画一的処理による法的安定性を一層重視したるによるものと解すべきだからである。所論の解釈によるときは、いわゆる合理的期間の算定が会社の規模その他の事情により区々となつて法律関係の混乱を生じ、右の法意に反する嫌を免れない。

もつとも、このように解するの結果は、論旨においても指摘されているとおり、会社は、その成立後不当に株券の発行を遅延しても、株券の未発行を理由として株式譲渡の効力を否認することができることとなるのであつて、このように株式譲渡の自由を事実上制約し得る可能性を会社に付与するような解釈を採ることは株式の自由譲渡性を規定した法の精神に照して許されるべきでないとすることは、たしかに一理あることで、株式の経済的機能との関連においても考量の余地がないとはいえないであろう。さればといつて、その故に前記法意が軽視されてはならないのであり、右所論指摘の場合は、株主に株券発行交付の請求権があることは当然で、その他会社に対して損害賠償の請求権をも妨げないのであるから、これらの権利の行使につき多少の不便不利があるとしても、前記の法意に変更を加え、所論のように二〇四条二項を以て株券発行準備の合理的期間内における株式譲渡の効力を否定するにとどまるものとし、右合理的期間の経過後は、株券の発行がなくても会社において株式譲渡のあつたことを承認した以上、株式の譲渡は、会社に対する関係においても効力を生ずるものと解するのことは首肯できない。同条の法意に関する原審の判断は、結局正当に帰し、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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